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深掘り中毒

コーヒーの淹れ方で「蒸らし不要」は本当?理由と器具を解説

こんにちは。

毎朝、キッチンに広がるコーヒーの香り。

一日の始まりを告げる、あの香ばしい匂いほど、幸せなものはありませんよね。

ドリッパーに丁寧にセットしたコーヒー粉。お湯をそっと注ぐと、まるで命が吹き込まれたかのように、ふわーっと、モコモコと膨らんでいく…。

あの「蒸らし」の時間は、コーヒーを淹れる儀式の中でも、一番美しく、見ていて愛おしい瞬間です。

…とはいえ!

…とはいえ、です。

本音を言えば、時計をチラチラと見ながら過ごす、あの30秒。

「あぁ、あと10秒…早く落ちてこないかな…」

「トーストが焼けちゃう!」

「もう、えいや!で淹れちゃダメかな…?」

バタバタと戦場のような忙しい朝、タイマーの電子音が鳴るまでの「蒸らし」の時間が、途方もなく長く感じること、本当に、本当によく分かります。

私自身、寝坊した朝は何度そう思ったか分かりません。

「大丈夫、きっとバレない。ちょっと薄くなるだけだ」

そう自分に言い聞かせて、蒸らしを「省略」した日の朝…。

マグカップに口をつけた瞬間の、あの衝撃は今でも忘れられません。

「うすい…!薄いのに、なんだかトゲトゲしてて美味しくない…!」

それは、いつもの「ふぅ、美味しい」という癒やしの時間とは程遠い、ただカフェインを摂取するためだけの「苦い作業」になってしまいました。

また、ある時は、奮発して買ったスペシャルティコーヒー。

「さあ、美味しく淹れるぞ!」と意気込んでお湯を注いだのに、豆が、しーん…と静まり返ったまま、まったく膨らまない。

「あれ?膨らまないぞ…?不良品?このまま30秒待って、意味があるんだろうか…」

キッチンで一人、ドリッパーを前に途方に暮れた経験もあります。

この記事は、そんな「蒸らし」に関する、あなたのあらゆる「モヤモヤ」や「めんどくさい!」という本音を、徹底的に解明するために書きました。

なぜ「蒸らし」が必要だと言われるのか、その科学的な理由から、もし「蒸らし」をサボったら味がどうなってしまうのか。

そして、あなたが一番知りたいかもしれない、「コーヒー 淹れ方 蒸らし 不要」を実現する、魔法のような器具や、忙しい朝のための賢い裏技まで。

この記事を読み終える頃には、あなたの「蒸らし」に対する疑問はすっきりと晴れ渡り、明日からのコーヒーライフが、もっと快適で、もっと美味しく、あなたの毎日に寄り添ったものになっているはずです。

どうぞ、お気に入りのマグカップでも用意して、リラックスしながら最後までお付き合いください。

 

この記事のポイント

・ハンドドリップ(透過式)の「蒸らし」は、原則として美味しい成分を引き出すために必要

・理由は「炭酸ガス抜き」と「お湯の通り道確保」のため

・古い豆(膨らまない豆)は、ガスが抜けているため厳密な「蒸らし」は不要

・フレンチプレスやエアロプレスなど「浸漬式」の器具は、構造上「蒸らし」工程が不要

・忙しい朝に「蒸らし」を省略したいなら、器具の変更が最も合理的

 

なぜ「蒸らし」は必要と言われるのか?その科学的根拠

まず、多くの方が「なんとなく大事そう」とは思っていても、はっきりとは知らない「蒸らしの必要性」について、核心からお話ししますね。

これは、昔からの「お作法」や「気合い」のような精神論では決してありません(笑)

美味しいコーヒーを淹れるために、これ以上ないほど合理的な、ちゃんとした「科学的な理由(わけ)」に基づいているんです。

理由は大きく分けて2つ。「ガス抜き」と「ムラ防止」です。

 

理由1:邪魔な「炭酸ガス」を追い出すため

 

「蒸らし」の最大の目的。それは、コーヒー豆(粉)の中にパンパンに詰まっている「炭酸ガス(二酸化炭素)」を、外に優しく追い出してあげることです。

「え?ガス?なんでそんなものが?」と思いますよね。

コーヒー豆は、生豆(なままめ)の状態から、あの茶色い豆になるために「焙煎(ロースト)」という高温での加熱処理を受けます。

この時、豆の内部では「メイラード反応」や「カラメル化」といった、ものすごく複雑な化学反応が起こり、それこそがコーヒーの素晴らしい香りや苦味、甘みを生み出しています。

そして、この化学反応の副産物として、大量の「炭酸ガス」も同時に発生し、豆の内部(細胞の中)に閉じ込められるのです。

新鮮な豆ほど、このガスを大量に含んでおり、それは「豆が元気で新鮮な証拠」でもあります。

しかし、この元気なガスくん、いざコーヒーを淹れようとすると、ちょっとした「お邪魔虫」になってしまうんです。

どういうことかと言うと、このガスが豆の内部にぎっしり詰まっていると、お湯が粉の中心部まで染み込んでいくのを、内側から押し返す力となって邪魔をしてしまいます。

例えるなら、コーヒー粉が「炭酸ガスの見えないバリア」を張っているような状態です。

そこへ、もし「蒸らし」をしないで、いきなりドバーッとたくさんのお湯を注いだら…

お湯はガスのバリアに弾かれてしまい、粉の「表面」だけをサーッと撫でるように素通りしていってしまいます。

そこで「蒸らし」の出番です。

最初にお湯を少量、粉全体にかけることで、豆は「待ってました!」とばかりに、溜め込んでいた炭酸ガスを一気に放出し始めます。

これが、あの「豆がモコモコと膨らむ」現象の正体です。

(あの膨らみは、見ているだけで幸せな気持ちになりますよね)

この「ガス抜き」の儀式(=蒸らし)をしてあげることで、お邪魔虫だったガスが外に出ていき、コーヒーの美味しい成分(オイルや甘み、複雑な香り)たちが、お湯に溶け出しやすい「ウェルカム!」な状態、つまり「準備万端」の状態になるのです。

 

理由2:お湯の通り道を作り「抽出ムラ」を防ぐため

そして、もう一つ。「蒸らし」には、ガス抜きと同じくらい大切な役割があります。

それが「抽出ムラ」を防ぐことです。

乾いたコーヒー粉がぎっしり詰まったドリッパー。

もし、ここに「蒸らし」をせず、いきなりジャバーッとお湯を注いだら、どうなるでしょう?

お湯というのは、非常に素直な性質(悪く言えば、ズル賢い性質)を持っていて、常に「一番ラクに通れるルート」を探します。

そして、一度そのルートを見つけると、そこばかりに集中して通り抜けようとします。

これは、カラカラに乾ききった、固い植木鉢の土に、勢いよく水をやるのとまったく同じです。

水は土全体にじわーっと染み込むのではなく、土の表面を伝ったり、どこかにある「目に見えないヒビ割れ」や「鉢と土の隙間」だけをめがけて、そこを「お湯の高速道路」のように使い、鉢の底から一気に流れ出てしまいますよね。

コーヒーのドリップでも、これと全く同じことが起こっています。

これを専門用語で「チャネリング」と呼びます。

このチャネリングが起こると、ドリッパーの中は悲惨な状態になります。

  • お湯が高速道路のように通り抜けた「一部の粉」だけが、過剰にお湯にさらされる。
  • お湯が全く触れなかった「大部分の粉」は、乾いたまま放置される。

これでは、コーヒー豆が本来持っている素晴らしいポテンシャルの、ほんの10%か20%くらいしか引き出せません。

「蒸らし」は、この最悪の事態=チャネリングを防ぐためにも、絶対に不可欠な作業なのです。

乾いた土を、まず優しく耕してあげるように。最初にお湯で粉全体を優しく湿らせることで、粉全体がお湯を公平に受け入れる準備ができます。

これにより、ドリッパーの中の粉全体に、均一にお湯が浸透していくための「公平な毛細管現象の通り道」が確保され、抽出ムラのない、狙い通りのバランスの取れた美味しいコーヒーが淹れられる、というわけです。

 

「蒸らし」の時間がレシピによって曖昧な理由

 

ここで、多くの方が「うーん」と首をかしげるポイントが登場します。

「理屈は分かった。でも、レシピによって蒸らしが30秒だったり、45秒だったり、1分だったり…曖昧すぎない?」

その通り!曖昧ですよね。

私自身も、コーヒーを学び始めた頃は、この「曖昧さ」に本当に悩まされました。どのレシピを信じればいいのか分からなくて。

ですが、これもちゃんと理由があるんです。

結論から言うと、最適な蒸らし時間は「その豆が今、どれだけガスを含んでいるか?」によって、ケースバイケースで変わるからです。

  • 豆の鮮度(焙煎からの日数)
    • 超・新鮮(焙煎直後〜3日): ガスがパンパンに詰まっています。ガスが強すぎて逆にお湯を弾きすぎるため、しっかりガスを抜くために長め(40秒〜1分)に待つこともあります。
    • 飲み頃(焙煎後4日〜2週間): ガスが適度に抜け、味も落ち着いて一番美味しい時期。30秒〜40秒くらいがベストな目安になります。
    • 古い(焙煎後1ヶ月以上): ほとんどガスが残っていません。後述しますが、ガス抜きは不要です。
  • 豆の焙煎度合い
    • 浅煎り(ライトロースト): 豆の組織がまだ固く、ガスがゆっくりとしか抜けません。そのため、蒸らし時間は「長め」に取る必要があります。(40秒〜1分程度)
    • 深煎り(ダークロースト): 豆の組織が熱で脆くなっており、ガスが非常に抜けやすい状態です。蒸らし時間は「短め」でOK。(20秒〜30秒程度)
  • 豆の挽き方
    • 細挽き: 粉の密度が高く、お湯が浸透しにくいので、少し長めに。
    • 粗挽き: 隙間が大きく、お湯が浸透しやすいので、少し短めに。

…どうでしょう?

「もう、考えることが多すぎてイヤ!」と思われましたか?(笑)

大丈夫です。安心してください。

これはプロのバリスタが、豆のポテンシャルを120%引き出すためにやっている調整です。

私たちが毎日、家庭で楽しむ分には、こんなに難しく考える必要はありません。

あるバリスタが私にこう教えてくれました。

「蒸らし時間は、ルールブックじゃなくて、豆との『対話』なんですよ」と。

「今日は元気に膨らむな」「今日はちょっと元気ないかな?」

そんな風に、豆の様子を観察しながら待つ。この「待ち時間」そのものが、コーヒーを淹れる豊かで、贅沢な時間なんだな、と。

…とはいえ!

「対話してるヒマなんかない!」というのが、忙しい朝の本音ですよね。

まずは「30秒」。

迷ったら、どんな豆でも「30秒」を基準にしてみてください。

これは、多くの豆にとって、大きな失敗のない「標準的なゴールデンタイム」です。

 

検証!「蒸らし」を省略すると味はどう変わる?

では、もし。

もし、この「蒸らし」の工程を、えいやっ!と省略してしまったら。

(私があの朝、やってしまったように…)

コーヒーの味は、具体的に、悲劇的に、どうなってしまうのでしょうか?

「ちょっと薄くなるだけでしょ?」と、軽く考えているとしたら、それは大きな間違いです。

「蒸らし」をしないことは、コーヒーのポテンシャルを「半分しか引き出せない」どころか、味の「バランスを積極的に、意図的に崩壊させてしまう」行為に等しいのです。

 

デメリット1:味が薄く、水っぽくなる

 

これは、想像しやすい最悪のパターンですね。

「理由1」で説明した「炭酸ガスのバリア」がギンギンに張られている状態で、お湯が粉の表面だけをサーッと素通りしていくわけですから、当然、コーヒーの美味しい成分は十分に抽出されません。

コーヒーの美味しさの核となる「甘み」「コク」「豊かな香り」「とろりとした質感(ボディ)」といった成分は、実は抽出の「中盤〜後半」にかけて、じっくりと溶け出してくるものが多いのです。

蒸らしをしないと、この「美味しい後半戦」が始まる前に、お湯が通り過ぎてしまいます。

結果として出来上がるのは、色こそ茶色く付いているものの、香りも、甘みも、コクも、なにもかもが足りない。まるで「コーヒー風味の水」のような、輪郭のぼやけた味わいになります。

例えるなら、「出汁(だし)をとる時間をケチったお吸い物」です。

香りが立たず、旨味もない。ただ「ちょっとしょっぱいお湯」を飲んでいるような、底知れない物足りなさを感じてしまいます。

せっかくの素晴らしいコーヒー豆が、その美味しいエキスを粉の中に閉じ込めたまま、生ゴミとして捨てられてしまう…。

これは、豆の生産者さんに対しても、焙煎士さんに対しても、そして何より、あなた自身のお財布に対しても、とても勿体無いことですよね。

 

デメリット2:酸味や苦味だけが突出する

 

そして、こちらの方が、より悲劇的で、飲んだ人を不快にさせる問題かもしれません。

「理由2」でお話しした「チャネリング(お湯の通り道の偏り)」が発生することで、味のバランスが完全に崩壊します。

思い出してください。

チャネリングが起こると、ドリッパーの中は、

  • お湯が全く通らなかった「大部分の粉」 → 抽出不足(=水っぽさの原因)
  • お湯が集中して通り抜けた「一部の粉」 → 過抽出(=イヤな味の原因)という、二極化した状態になるのでしたね。

この「過抽出」になった一部の粉から、コーヒーの成分の中でも、特に「出やすい」性質を持つ「酸味」の成分と、逆に出過ぎると「不快」に変わる「苦味」「エグ味」「渋み」といったネガティブな成分だけが、大量に、濃縮されて溶け出してしまいます。

その結果、出来上がるコーヒーは、

「ただ水っぽいだけでなく、口当たりは薄っぺらいのに、舌の上には、トゲトゲしい酸っぱさや、焦げたような苦味だけが、ザラザラと突き刺さってくる」

という、非常にアンバランスで、飲んでいて「うっ…」となるような、心地よくない味わいになってしまうのです。

私があの寝坊した朝に飲んだ「マズイ」コーヒーの正体は、まさにこれでした。

「薄い」と「エグい」が同時に襲ってくる、最悪のコンビネーションです。

あの日の衝撃以来、私はどれだけ寝坊しても、最低限「粉全体を湿らせて数秒待つ」ことだけは、自分に誓っています。

あの30秒は、美味しいコーヒーを飲むための「妥協できない助走」なんだと、身をもって知ったからです。

 

その「蒸らし」、本当に必要?ケース別 Q&A

ここまで「蒸らしは絶対に大事!」というお話をしてきましたが、もちろん「例外」や「悩ましいケース」もあります。

読者の方からよくいただく、具体的な「こういう時はどうなの?」という疑問に、一つ一つ丁寧にお答えしていきますね。

 

Q1. 豆が膨らまない(古い豆)場合、蒸らす意味は?

 

A. 厳密な「ガス抜き」のための蒸らしは不要です。ただし、「粉全体を湿らせる」作業は必ず行ってください。

これは、本当に多くの方がガッカリし、同時に悩むポイントですよね。

「期待してお湯を注いだのに、しーん…と静まり返っている」

「もうガスが抜けてるなら、タイマーで30秒待つ意味、ないよね?」

その通りです。

豆が膨らまない(=炭酸ガスがほとんど残っていない)場合、「理由1:ガス抜き」としての「蒸らし」は、もはや不要です。律儀に30秒待つ必要はありません。

しかし!思い出してください。「理由2:抽出ムラを防ぐため」という、もう一つの大切な役割がありましたよね?

乾いた粉にいきなりお湯を注げば、たとえ古い豆であっても、必ず「チャネリング(お湯の偏り)」は発生します。

古い豆はガスがない分、逆にお湯の浸透が早すぎて、意図せず過抽出(イヤな苦味)になりやすい、という側面さえあります。

ですから、豆が膨らまなくても、

「(ガス抜きはしないけど)抽出ムラを防ぎ、粉を落ち着かせるために、粉全体がしっとりと湿るまで、最初のお湯を注いで数秒(5〜10秒ほど)待つ」

という作業は、ぜひ行ってください。

膨らまないからといって、即座に次のお湯を注ぐのではなく、一呼吸おく。

それだけで、味の安定感が格段に変わってきますよ。

 

Q2. 豆じゃなくて「粉」で買った場合はどうする?

 

A. 基本的に「Q1. 古い豆の場合」と同じです。膨らまないのが普通なので、ガッカリしないでください。

コーヒーは「豆」ではなく「粉」の状態で買う、という方も非常に多いと思います。

「粉で買ったら、一度も膨らんだことがない!」という方、安心してください。それが「普通」です。

コーヒー豆は、粉に挽いた瞬間から、ものすごいスピードでガスが抜けていきます。(豆の状態と比べて、数百倍のスピードとも言われます)

お店で挽いてもらって家に帰る頃には、もうほとんどのガスは放出されてしまっているんですね。

ですから、粉で買ったコーヒーが膨らまなくても、それは豆が古いわけでも、あなたが悪いわけでもありません。

対応は「Q1」とまったく同じ。

  • ガス抜きは不要なので、30秒きっちり待つ必要はありません。
  • ただし、「抽出ムラ」を防ぐために、粉全体を湿らせて「数秒待つ」作業は、必ず行いましょう。

 

Q3. 忙しい朝、どうしても省略したい!

 

A. 基本的にはおすすめしませんが、「撹拌(かくはん)」で代用する裏技もあります。(ただし、味の劣化は覚悟してください)

「理屈は分かった。Q&Aも読んだ。でも、それでも省略したいんだ!」という日、ありますよね。人間だもの。

その場合は、先ほど述べた「味が薄くなる」「バランスが崩れる」というデメリットをある程度受け入れた上で、少しでもそれをマシにする「裏技」を使うことになります。

その方法については、この後の章で詳しく解説しますね。(アプローチ2でお話しします)

 

器具別:「蒸らし不要」で淹れられるコーヒー器具

 

お待たせいたしました。

ここが、今回の記事の「最大の希望」であり、「最も合理的な答え」です。

「蒸らしがめんどくさいなら、蒸らしが必要ない器具を使えばいいじゃない!」

そう、フランス革命のあの言葉のように、まさにその通りなんです。

驚かれるかもしれませんが、私たちが「蒸らし」と呼んでいるあの面倒な工程が絶対に不可欠なのは、ハンドドリップ(ペーパードリップやネルドリップ)のような「透過式(とうかしき)」と呼ばれる淹れ方だけなのです。

「透過式」とは、上からお湯を注ぎ、粉の層を「通り抜けさせて(透過させて)」コーヒーを抽出する方法です。

だからこそ、「お湯の通り道」を均一にするための「蒸らし」が必要でした。

ですが、世の中には「蒸らし」が構造上、まったく必要ない、素晴らしい淹れ方がちゃんと存在するんです。

 

【結論】フレンチプレス、エアロプレス(浸漬式)は蒸らし不要

それは、「浸漬式(しんししき)」と呼ばれる器具を使った淹れ方です。

「浸漬」とは、簡単に言えば「漬け込む」こと。

コーヒー粉を、お湯の中に一定時間、丸ごとザブンと漬け込んでから、最後に濾(こ)す、という非常にシンプルで、失敗の少ない方法です。

例えるなら、ハンドドリップが「繊細なコントロールが必要なシャワー」なら、浸漬式は「誰でも入れる、たっぷりのお風呂(バスタブ)」です。

お風呂に入れば、全身が一瞬で、均一に濡れますよね?

「まず髪を湿らせて…(蒸らし)」といった面倒な工程は、一切必要ありません。

この「浸漬式」の代表的な器具が、

  • フレンチプレス
  • エアロプレス
  • クレバードリッパー(や、それに類する「スイッチ」式のドリッパー)などです。

これらの器具は、粉とお湯を容器の中で「出会わせて、混ぜてしまう」のが前提です。

そのため、ハンドドリップが悩まされていた2つの問題が、一瞬で解決します。

  1. ガス抜き問題: お湯に浸かった瞬間、ガスは自然とブクブクと抜けていきます。
  2. 抽出ムラ問題: 粉全体がお湯にどっぷり浸かっているので、原理的に「お湯が触れない粉」が存在しません。

したがって、これらの器具を使う場合、「蒸らし」という独立した工程は、完全に不要です。

それぞれの特徴を簡単にご紹介しますね。

  • フレンチプレス:「王道の浸漬式」です。粉を入れて、お湯をドバっと注ぎます。粉が浮いてくるので、スプーンやマドラーで軽く混ぜて(撹拌し)、蓋(プランジャー)を乗せて4分待つ。たったこれだけ。タイマーが鳴ったら、ゆっくりプランジャーを押し下げて完成。ペーパーフィルターを通さないため、コーヒー豆が持つ「オイル(コーヒーオイル)」までダイレクトに味わえ、最も豆の個性(甘み、質感)が分かりやすい、とろりとした舌触りが魅力です。
  • エアロプレス:「万能な浸漬式」です。注射器のようなユニークな形をしています。レシピは多様ですが、基本は粉とお湯を入れて混ぜ、1分〜1分半ほど待ってから、空気圧で一気に「ギュッ」とプレスするだけ。空気圧で短時間で抽出するため、雑味が出る前に美味しさだけを搾り取れるのが特徴。淹れ方次第でエスプレッソ風の濃厚なものから、スッキリしたものまで作れる、まさに「遊べる」器具です。
  • クレバードリッパー(スイッチ):「忙しい朝の最強の味方」です。見た目はハンドドリップのドリッパーですが、底に弁(フタ)が付いています。ドリッパーにペーパーと粉をセットし、お湯を注ぎます。(ここで待つだけ。蒸らしは不要)。2〜3分経ったら、そのドリッパーをサーバーやマグカップの上に乗せる(またはスイッチを押す)と、底の弁が開き、完成したコーヒーが一気に落ちてくるという仕組み。ハンドドリップの手軽さ(片付けが楽)と、浸漬式の失敗のなさ(味のブレが皆無)を両立した、天才的な発明品だと私は思っています。

 

プロ(バリスタ)は「蒸らしなし」の淹れ方をしない?

ここで、ちょっとマニアックな疑問にもお答えしますね。

「プロのバリスタは、絶対に『蒸らし』をするの?あえてしない流派とかないの?」

いい質問ですね。コーヒー好きの探究心が感じられます。

結論から言うと、お店でお客様にハンドドリップを提供する際、99.9%のプロは「蒸らし」を最も重要な工程の一つとして、必ず、細心の注意を払って行います。

なぜなら、それが一番、豆のポテンシャルを引き出し、毎日ブレのない安定した味を提供できる、失敗のない「王道」の方法だからです。

ただし、0.1%の例外もあります。

それは、コーヒーの技術を競う「競技会(チャンピオンシップ)」など、非常に特殊な舞台です。

そこでは、審査員を驚かせるために、使用する豆の個性を極限まで(時には歪なほどに)引き出すために、あえて「蒸らし」をせず、湯量を極端に絞ったお湯で、6分も7分もかけて、最初から最後まで途切れなくポタポタと注ぎ続ける…といった、非常に高度で特殊なテクニックが披露されることがあります。

でも、これは、F1レーサーがサーキットで、タイヤを軋ませながら見せる超絶ドライビングテクニックのようなもの。

豆の焙煎度、挽き目、鮮度、お湯の温度、水質、すべてを完璧に計算し尽くした上で、初めて成り立つ「神業」の世界です。

私たちが毎日、家庭で「ああ、美味しい」とホッと一息つくために飲むコーヒーは、やはり基本に忠実に、「蒸らし」を丁寧に行うのが、最も確実で、最も美味しい近道だと言えますね。

 

(豆知識)ハンドドリップだけど「蒸らし」が特殊な器具

 

最後にもう一つ、面白い豆知識を。

ハンドドリップ(透過式)の中でも、「蒸らし」の概念が少し違う器具があります。

それは、メリタ式(1つ穴)や、カリタ式(3つ穴)のドリッパーです。

皆さんがよく目にする(あるいは今お使いの)ハリオV60(円錐・1つ穴大)は、穴が大きいため、お湯がスピーディーに「透過」していきます。だからこそ、「蒸らし」でしっかり準備をしないと、すぐに味が薄くなってしまいます。コントロールが難しい、上級者向けとも言えます。

一方、「メリタ(1つ穴小)」や「カリタ(3つ穴小)」は、そもそも出口の穴が小さく設計されています。

これは、お湯を注いでも、ドリッパーの中にある程度お湯が「溜まる」ことを前提に作られているからです。

つまり、「透過式」と「浸漬式」の、ハイブリッド(中間)のような構造になっているんですね。

ある程度お湯が溜まってくれる(=半・浸漬状態になる)ため、ハリオV60ほど厳密に「蒸らし」の秒数を気にしなくても、比較的味が安定しやすい、という大きなメリットがあります。

(もちろん、蒸らしをした方が格段に美味しくなりますが!)

もし、あなたが今ハリオV60を使っていて「蒸らしやコントロールが難しい…」と感じているなら、器具をカリタやメリタに変えてみるだけでも、朝のコーヒーがグッと楽になるかもしれませんよ。

 

忙しい朝に最適!「蒸らし不要」で美味しく飲む3つのアプローチ

さあ、これまでの話をすべて踏まえた上で、「あの忌まわしい『蒸らし』の待ち時間を、どう乗り切るか?」という、最も実践的な解決策を3つ、ご紹介します。

これは、どれが正解ということではありません。

あなたのライフスタイルや、「味へのこだわり度」に合わせて、ぜひ選んでみてください。

 

アプローチ1:【最も推奨】器具を「浸漬式」に変える

 

これが、私がいちばん強く、声を大にしておすすめする方法です。

「蒸らしがめんどくさい」という悩みを、最も合理的かつストレスフリーに、しかも「最高に美味しく」解決してくれます。

前述した、

  • フレンチプレス
  • クレバードリッパー(スイッチ)
  • エアロプレス

これらの「浸漬式」器具を、あなたの「朝の新しい相棒」として迎えてみませんか?

勘違いしてほしくないのは、これは「ハンドドリップからの逃げ」や「妥協」では、決してないということです。

ハンドドリップ(透過式)が「スッキリとしたクリアな美味しさ」を引き出すのが得意なら、

浸漬式は「豆の甘みや質感を丸ごと味わう、リッチな美味しさ」を引き出すのが得意です。

ハンドドリップで「蒸らし」を省略するのは、味を犠牲にする「妥協」です。

でも、器具を「浸漬式」に変えるのは、「新しい美味しさとの出会い」を求める、積極的な「選択」です。

私自身、平日の朝は、もう何年も「クレバードリッパー」に頼りきりです。

キッチンに着いたら、まずペーパーと粉をセットしてお湯を注ぎ、タイマーを3分セット。

その間に、トーストを焼いたり、身支度をしたり。

タイマーが鳴ったら、マグカップの上に乗せるだけ。

そこには「蒸らし、まだかな…」とイライラする私はもういません。

必ず安定した美味しいコーヒーが待っていてくれる。

「朝のコーヒー」が、本当に『作業』から『楽しみ』に変わった瞬間でした。

 

アプローチ2:ハンドドリップで「撹拌(かくはん)」を代用する

「それでも私は、今使っているこのドリッパーで淹れたいんだ!」

「器具を増やすのは、ちょっと…」

その気持ちも、とてもよく分かります。愛着のある道具は、使い続けたいですよね。

その場合は、「蒸らし」の待ち時間を限りなくゼロにするための「裏技」を使いましょう。

それが、「撹拌(かくはん)」、つまり「かき混ぜる」ことです。

「蒸らし」の目的は、「ガス抜き」と「均一化」でしたよね。

これを、スプーンや竹串のような細い棒で「強制的に」「手動で」やってしまうのです。

  1. 蒸らしのお湯を、粉全体が湿るように注いだら、タイマーで待つ代わりに、すぐにスプーンなどで粉全体を優しく、数回かき混ぜます。
  2. (これで強制的にガスが抜け、粉全体が湿った状態になります)
  3. そのまま待たずに、2投目のお湯を注ぎ始めます。

これなら、待ち時間は実質3秒ほど。劇的な時間短縮になります。

ただし!この方法には、本当に大きな注意点(リスク)があります。

それは、「絶対に、かき混ぜ過ぎないこと」です。

「しっかり混ざれ!」とばかりに、スプーンでガチャガチャとかき混ぜるのは、最悪の選択です。

コーヒー粉が必要以上に踊ってしまい、壁面に叩きつけられ、大量の「雑味」「エグ味」「不快な苦味」が抽出されてしまいます。

あくまで「粉全体を湿らせる」ために、優しく、手早く。

ドリッパーの中心で「十字を切る」ように、そっとかき混ぜる程度に留めてください。

味は、丁寧に30秒蒸らしたものと比べると、やはり少し荒削りになる可能性が高い、という点は覚悟しておきましょう。

これは、あくまで「時間がない時の最終手段」と捉えてください。

 

アプローチ3:「蒸らし」の影響が少ない豆を選ぶ

 

最後の方法は、やや消極的ではありますが、合理的なアプローチです。

「蒸らし」を省略しても、比較的ダメージが少ない(=味の変化が小さい)豆を、あえて選ぶ、という考え方です。

それは、もうお分かりですね。

「炭酸ガスが、すでにあまり残っていない豆」です。

  • 焙煎してから時間が経った豆(古い豆)
  • 深煎り(フレンチロースト、イタリアンロースト)の豆

「古い豆」は、そもそもガスがないので、蒸らし(ガス抜き)を省略した時の味の落差がありません。(もちろん、新鮮な豆の華やかな香りもありませんが…)

「深煎りの豆」は、組織が脆くガスが抜けやすいという特性に加えて、もともと「苦味」と「コク」が味の主役です。

ハンドドリップで最も繊細なコントロールが求められる「酸味」の変化が少ないため、蒸らしを省略した時の「バランスの崩れ」が、浅煎りや中煎りの豆ほどは目立たない、という傾向があります。

「朝は、とにかくガツンとした苦いコーヒーが飲みたい」

「繊細な味より、手軽さが優先」

という場合には、あえて「深煎りの粉」を選び、「Q1」で解説したように「粉全体を湿らせて数秒だけ待つ」という淹れ方にするのが、現実的な落とし所かもしれません。


 

蒸らし不要のコーヒーの淹れ方まとめ

 

本当に長い、長い記事になってしまいましたが、最後までお付き合いいただき、心からありがとうございます。

あなたの「蒸らし」に関する、長年のモヤモヤや「めんどくさい!」という気持ちは、スッキリと晴れましたでしょうか?

最後に、この記事でお伝えしたかった、大切なポイントをもう一度まとめます。

 

まとめ

・ハンドドリップの「蒸らし」は、豆のポテンシャルを最大限に引き出すための「美味しくなれ」のおまじないであり、「必要な助走」

・理由は「ガス抜き」と「抽出ムラ防止」という、非常に科学的で合理的な根拠がある

・蒸らしを省略すると、味が薄くなるだけでなく、酸味や苦味だけが突出した「バランスの悪い味」になる

・ただし、豆が膨らまない(古い豆・粉で買った豆)場合は、ガス抜きの必要はない(ただし「粉を湿らせる」作業は数秒必要)

・「コーヒー 淹れ方 蒸らし 不要」を、本気で、しかも「美味しく」実現したいなら、答えは驚くほどシンプル

・最もおすすめなのは、フレンチプレスやクレバーなど「浸漬式(しんししき)」の器具を使うこと

・これなら「蒸らし」という工程そのものが不要で、忙しい朝もイライラゼロ

・次善の策として、ハンドドリップで「撹拌」を試す(リスク有り)か、あえて「深煎り」の豆を選ぶ方法もある

 

コーヒーの淹れ方に、たった一つの「絶対的な正解」はありません。

バリスタ世界一の淹れ方が、あなたの忙しい朝にとって「正解」とは限らないのです。

大切なのは、あなたのライフスタイルや、その日の気分に、優しく寄り添ってくれる方法を見つけること。

この記事が、あなたの毎日のコーヒーライフを、ほんの少しでも豊かに、そして快適にするためのお手伝いができたなら、これほど嬉しいことはありません。

どうぞ、素敵なコーヒータイムをお過ごしください。

  • B!